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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(オ)115号 判決 1954年1月28日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

所論は、履行遅滞の存する場合においても、履行期を延期し新履行期を定めたときは、履行遅滞による損害賠償請求権を留保する意思表示が為されない限り、遅滞の効果は解消せられ、損害賠償請求権は消滅したものと解すべきだと主張するのである。

しかし、履行遅滞の存するときに履行期を延期する場合において、すでに発生した遅滞による損害賠償請求権の処理をいかにするかは、当事者間の自由な意思表示で決定せらるべき問題ではあるが、この点について何等の意思表示がなかつた場合には、すでに生じた遅滞の効果は当然消滅するに由なく、履行期の延期はその本質に照らしただ将来に向つて遅滞の責を免れしめるに止まるものと解するを相当とする。従つて、すでに生じた損害賠償請求権は、債権者がこれを抛棄しまたはその義務を免除せざる限り消滅しないものと言うべきである。かかる遅滞の効果の消滅事由は、債務者の側において主張・立証を要する事項である。なお、原判決においてはさらに被上告人が上告人に対して引渡遅延による責任を宥恕した事迹を認めるに足る資料はないと判示しているから、損害賠償請求権を認めたのは当然であつて、原判決には違法のかどはない。それ故に、論旨は採ることを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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